神茂では、半ぺんの原料である青鮫とよし切り鮫を、気仙沼漁港、焼津漁港をはじめ各地の漁港から毎日直接、仕入れています。
青鮫は漁獲量が少なく、また半ぺん製造業者の減少から、築地では仕入れにくくなり、青鮫の代わりに鱈を使うようになったり、よし切り鮫のみでの製造にかえていった業者もありました。
そんななか私たち神茂は、昔ながらの原料と製法にこだわり、伝統の味わいを守り抜こうと想いを強くし、新鮮な青鮫を各地の漁港に求めました。
脂の乗った身質の良い70キロクラスの若い青鮫を冷蔵で毎日仕入れて、日本橋の店で下ごしらえします。身質がしっかりしており、味も強く、半ぺんの味のまとめ役である青鮫を約4割。別名水鮫というぐらい身質が柔らかく、空気を抱き込みやすく、半ぺんの食感として不可欠なよし切り鮫を約6割。
この割合を長年、守り続けています。
気仙沼漁港をはじめとする各地の漁港から冷蔵で鮮度良く届いた皮付きの青鮫とよし切り鮫を、神茂の職人がていねいにさばきます。
一番のポイントはきれいに血合いを取り除くことです。すり身の状態で仕入れると、この血合いが多く残っており、 血合いに含まれる消化酵素が、身のタンパク質を壊し、結果、半ぺんに大切な食感が損なわれてしまうのです。 血合いを取り除いた鮫の肉を、神茂では1回だけ機械に通して身と筋に分けます。
身の良いところだけの最初の肉を 一度しぼり・一番肉と言いますが、この一番肉で半ぺんを造ります。
二番肉、三番肉でも半ぺんを造る業者が昔多くあったようですが、 何度も圧縮して身を搾り取ると筋などが入って、半ぺんが硬く、食感が悪くなってしまいます。 この一番肉に塩や山芋、卵白などを入れ、石臼で約45分かけてすり上げ、もう一度濾して、 全体のきめを細かく整えます。その後、職人が熟練の技で、木型と狭匙(せっかい)という道具で型取りし、茹で上げていきます。
- 神茂では一番肉を半ぺんに、二番肉、三番肉で、魚すじを造ります。味の強い青鮫の肉が入ったこの魚すじは味がよいと評判をいただいています。歌舞伎界では若手でちょっと筋のいい役者が出てくると「あの野郎、ちょっとカンモだねえ」という言い方があるほどです。
神茂の半ぺんは真っ白で非常に肌理が細かく、なかは空気を含んでふんわり軽く、魚の旨みが口の中に広がります。
この美味しさや食感を出すために、よし切り鮫と青鮫の一番肉を一度ミンチにかけてから漉し機にかけた後、石臼ですりあげます。石臼は杵ですりつぶして練るため、魚肉の細胞組織を破壊しにくく、旨みが残るのです。水分や気泡が丁度いい具合になるように、すり時間を調整します。さらに肌理の細かな半ぺんに仕上げるために、すり上がった身を再度微小な目の濾し機にかけ調味料を均一になじませ、身の肌理を整えます。
そうしてすり上がったものを、腕の確かな職人が一つ一つ狭匙(せっかい)という木べらを使い、型に盛り、回しながらたたいて身を膨らませます。手取りをすることで、ふっくらと空気をふくんだ、神茂ならではの半ぺんに仕上がります。この二度漉す独特の工程は神茂ならではの工程でしたが、先代が他の半ぺん業者に公開したので、当時の工場長と先代が揉めたほどです。
先代は半ぺん業界の繁栄を考え、工場長は自社を愛する気持ちから同業者に手の内を見せるのが嫌だったのでしょう。
そのような先人達のこだわりを現在の職人達も引き継ぎながら守られてきた、神茂の味は320年経った今も、多くの方にご贔屓にしていただいております。